村上龍 読書

サッカー小説!?『悪魔のパス 天使のゴール』

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あらすじ

セリアAの日本人選手「夜羽冬次」と小説家・矢崎は、サッカー選手が次々と心臓麻痺で死亡する現象の理由を知り、その危険は夜羽の身にも迫る…。

夜羽は中田英寿をモデルにしている。
ほかの選手は実名で、濃密な試合展開が描写されている。

異色!

あらすじの通り、異色のサッカー小説。
主人公がおなじみの分身「矢崎」で小説家、そして友人関係にあるセリエAサッカー選手「夜羽」…で、サッカーの奥深さや魅力にヨーロッパの食、美しさを語る様子はだいたいサッカーエッセイと同じような雰囲気で、それにサスペンス要素や、100ページ以上の紙面を割いた異常に濃密なサッカー描写…を足したものになっている。

サッカー描写、特に最終戦…はとにかく圧巻。
文字だけで表現されたスポーツでここまで圧巻されたものは今までに体験がなかった。
野球のラジオ実況などを聞いたことはあるが、前提知識や映像がないと意味不明だ。
この小説は違う。

私はサッカーというスポーツも、人名(カタカナが多い!)もわからない、もっと言えばスポーツ観戦に興奮したことすらないのだが、書いてあることを理解し、情景として思い浮かべ、ハラハラすることができた。
凄まじいことだと思う。
『5分後の世界』の淡々とした、極力内面を描かないような戦闘描写に強く共通するものがある。

すべては最終戦を盛り上げるためにある

この小説になぜ心臓麻痺やら陰謀、サスペンス?およそ村上龍らしくないようなものが出てくるか?
異様に緊張した、最終戦を作りだすためだ。

言ってしまえば物語前半でさも意味ありげに描かれた陰謀にはほとんど意味はなく、矢崎はほとんど何もしてないし何も解決していない。
さも巨大な陰謀って感じがするが、そこに期待してはいけない。

この小説のメインはあくまでサッカー、なのだ。

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