村上龍 読書

いい仕事との関係性、温度を正確に表現する―『無趣味のすすめ』

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あらすじ

月刊ビジネス誌『GOETHE』で連載されたエッセイの2006年〜2011年分をまとめたもの。
ちなみに 同雑誌の連載の2011年〜2015年分は『おしゃれと無縁に生きる』として発売されている。

傾向

比較的上の階級の、猛烈に働くビジネスマンをターゲットにしている雑誌での連載なので、仕事に関する話しがほとんど。
タイトルは、趣味は老人のもので、人生を脅かすことがないが強烈に変えることもなく、村上自身趣味を持っていない、ということに由来する。
真に人生を変えるものは「仕事」の中にしかないというわけだ。
ここらへんが雑誌の趣旨とピッタリと合っている。

というか、雑誌の創刊時から掲載されているのでこの文章が雑誌全体の方向性を決めた一面もあるかもしれない。ないかもしれない。

『おしゃれと無縁に生きる』よりも仕事、執筆の話が多く、まさに仕事雑誌!という感じがする。

一方で交渉術や仕事術、ワークライフバランス、モチベーション、効率化、スケジュール管理、…といったビジネスマン向け産業が跋扈し実践するが根本的なところ、人生の優先順位、信頼関係…を考えない人が大多数を占める状況を痛烈に批判し、見につまされる。

仕事とは何か、 安定の厳密さで表現する

世の中に溢れるあらゆる言説は誤解を招き、現実とは乖離していることがほとんどだが、受け手も何も考えていないので問題にならない。

もちろん文章だけでない。
日常的な会話でも相手の話はほとんど聞いていないし、自分の言葉や表現の正確性はほとんど意識されない。
ほとんどの人にとってそれで死ぬことはまずないし表出することもないから、それでいい。

が、少数派として危機感を感じ、それを拒否して正確な表現をしようとする人もいる、例えば村上龍だ。
本エッセイにおいても正確に伝えるために非常に慎重に言葉を重ねている。

例えば14ページ、「好き」という言葉の罠、という章では、
「好き」という言葉の曖昧さ、自家撞着の危険性を自身の小説執筆との関係を上げて説明するのだが、小説との関係性について「わたしは小説を書くのが好きではない。じゃあ嫌いなのかというとそうでもない。おそらくそれがなくては生きていけないくらい重要で大切なものだが、非常な集中を要するのでとても好きとは言えないのだ」
とやや回りくどさすら感じるくらい距離感を正確に表現している、そうしないと伝わらない。

こういう文章を紹介しておいてなんだが、上記の文は勝手に要約したので正確性に欠けるかもしれない。
微妙なニュアンスを正確に伝えた文章を要約するのは難しい。

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