村上龍 読書

人生は仕事、家庭、愛人、テニスでできている

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仕事に誇りを持っている人間は魅力的に見え、プライベートもうまくいっている可能性が高い。

だが仕事かプライベート、どちらが先にあるかはわからない。
最初によいプライベートがあって、守ろうとしてよい仕事が生まれるのかもしれないし、余裕がいい仕事を生み出すのかもしれない。
間違いないのは、それぞれの充実は関連して人生全体としての充実をより大きくするということだ。
よい出会いは、起爆剤としてすべての側面に影響する力を持つことがある。

理解しわかっていても、具体的にイメージすることは難しい。
充実している人はプライベートを明らかにすることはないし、経済的に成功した人ならなおさらだ。
具体的にイメージする方法はあるのだろうか?そういうときための小説である。

村上龍の小説『テニスボーイの憂鬱』では、個人の仕事、家庭、愛人、テニスという4つの要素が関連し人が大きく変化していく様子を描いている。
たかが小説、というのは簡単だが、妙にリアリティがある。
4つの側面から、小説を分析していきたい。

人生を構成する4つの要素

『テニスボーイの憂鬱』の主人公青木にとっての人生は仕事、家庭、愛人、テニスであるように見える。
テニスが異彩を放ちまくっているが事実である。

要素は相互に関連して人生を構成していて、関連して上がったり下がったりしてどれも同じレベルに落ち着く。
仕事をうまくやった人は家庭もうまくいっている人が多い。
家庭が仕事を支えている、だから仕事もプライベートも手を抜かない。

村上龍は20年後「カンブリア宮殿」でもそういうことを言うことになるのだが、まさか予想してなかっただろうな…。

仕事

土地成金の父の金で道楽として始めたステーキ屋を適当に経営していたが、充実感はなく、抜け出してテニスばかりしていた。
しかしある女と出会うことをきっかけに仕事に充実感を持ち、他店舗展開させブラジルから肉を輸入し多忙を極めるように。
仕事を通じ誇りを持ち周囲に変わったと言われるようになり、一家の柱としての責任感を自覚するまでになる。

家庭

青木の家族構成…
土地成金の父、愛情のない妻、かわいい息子ヨシヒコ。

別に壊れているとまではいかないが、結束のない家族。
仕事もうまくいかず、家庭にも興味がない青木は愛人やテニスへ逃げた。

やがて仕事や愛人が充実してくると、自分が家族を守らないといけない存在だということを自覚し、壊したくないと思うようになる。

愛人

この小説は理想の不倫モノという側面も持っている。
理想の不倫モノとは、男のほうは家庭を大事にし子供とも妻とも良好な関係を築き仕事もできるのに加え、愛人にも愛情や金を与え夜の生活や交流を楽しみうまくいっていて、愛人のほうは男の家庭を乱すことなく、領分を侵すことなくその男との瞬間を心から楽しんでいる、ような関係を描く村上龍の小説の一ジャンルのこと(独自解釈)。

ありがちなスリリングな関係を楽しむ娯楽としての不倫、妄想小説を提供するということより、お互いに自立していて、相手に自分より優先するものがあるということを知っている象徴として描かれる。

妻とは違った、常に不安定で緊張感のある関係なので、たゆまぬ努力を必要とし、それが何かを生むことがある。
青木の場合、仕事へのエネルギーとなった。

テニス

序盤はバカで笑える小説の部類(『走れ!タカハシ』や、『69』、『』の雰囲気)に入る。
主人公の青木は地の文でずっと「テニスボーイ」と書かれている。
でも別に本職のテニスボーイというわけではなく、金持ちの息子でテニスを仕事より熱心にやっているだけにも見える。
テニス仲間達がやたら多く個性的、細かい描写で笑え、呑気な雰囲気に満ちている。

本人はテニスを大真面目にやっている。
他者との距離など、人生の教訓をテニスに見出すこともある。

テニスはあまり本編とは関係ない感じがする。
村上龍本人がテニスをしていて感じた経験を不倫モノを中和するようにぶっこんだような…。
テニスでだいぶ明るくなっているが、話そのものはやたら長く地味な、一人の男が変わることを描いた小説なのである。

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