村上龍『半島を出よ』は、福岡が北朝鮮コマンドに占領されるという衝撃のストーリーである。
世界情勢的に、確実に映画化はされない(笑)。
その設定から対外的な侵略というところに意識が向きやすいが、読んでみると福岡と東京の対立、国際関係、とゴジラを一丸になって倒すのとは次元が違うことがわかる。
マクロなリアリティを生み出しているのはそれぞれの利害関係を的確に把握し、それぞれの集団の行動を予測しているためだが、今回はミクロにリアリティをもたせ、これからの世代に希望を与える職業本として見てみようと思う。
職業本
様々な人物が登場し、それぞれ職業があり、細かく描写されていた。
虫の育成、兵士、公務員、官僚、詩人、部屋の発破、爆弾の設置、アナウンサー…
本来の意味の職業ではなく、問題児なりに好きだからやっていたという例もあるが、高度に専門的で、職業といっていいだろう。
それぞれの人物は個人ではなく、職業で結ばれていた。
占領されたなかで、職をまっとうし、お互いに関連している。個々の職業から見える風景を結んだ社会の全体像は、現実感があった。
同じ村上龍の『オールド・テロリスト』では、ジャーナリスト「セキグチ」の職業人としての生き方に着目していたように感じたが、今回はより多数の職業人を描くことで仕事に支えられる社会、個々の仕事の関連性に着目していたように思う。
『18歳のハローワーク』に代表されるように、村上龍の作品には仕事、職業について並々ならぬこだわりを感じる。政治や経済の話題も頻出するが、個人は仕事を通してそれに関わっていく。
巻末には大量の参考文献があり、その知識の裏付けが、リアリティを出す源泉だ。
インタビューも相当量なようで、北朝鮮コマンドの言動、バックグラウンドの随所に、リアリティがあるのに納得した。小説、虚構、という形をとっているが、ミクロなところは知識でコーティングされている。
最初にゴジラを倒すのとは違う、といったが、様々な分野のプロが手を合わせるといった面では同じことがいえるかもしれない。少なくとも、『シンゴジラ』では民間のさまざまなプロが手を合わせて倒した。
社会とつながり、何かを成し遂げるには専門的技術が必要である、ということを『半島を出よ』は力強く主張している。