誰かへの独白という形をとった文章や物語がある。
一番に思い出すのは夏目漱石『こころ』だ。
「先生」が「わたし」に手紙で、大学時代に起きた親友への裏切りを語る。
手紙での独白という形の文章で、その後の人生で苛まれる深い後悔や悲劇的な結末が際立ち、自分に語られているような没入感を得ることができる。
村上龍『タナトス』は『エクスタシー』、『メランコリア』に続くヤザキの周辺人物の退廃と官能に満ちた独白である。
時系列としては最も後で、パリで女優をしていたレイコが狂い、キューバでカメラマンのカザマに「先生」(ヤザキ)の狂気の独白をする、というストーリー。
いつも思うが、村上は狂った人間を描写するのが異常にうまい。今回も、いかんなく発揮されていた…。