村上龍 読書

幸福至上主義への疑問を突きつける―『賢者は幸福ではなく、信頼を選ぶ』

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あらすじ

男性ファッション誌『Men's JOKER』上で連載されていたエッセイをまとめたもので、雑誌の読者層的に、若者へ向けた文章。

テーマとしては、笑い、幸福、プライド、欲望、怒り、対立、経済格差、…と幅広いが、他のエッセイや小説でのテーマと重複していることも多いので、専門的知見を持つテーマの中から、若者向けになりそうなものを選んでいるように感じる。

意味のない笑い、共感―

この本の最初の章は「寂しい人ほど笑いたがる」というタイトルがついている。
村上龍の作品ではよく笑いに関して言及されることが多い、特に何がおかしいのかわからないのに笑うことや、初対面の人間に対する無意味な笑いについては厳しい指摘をしていることが多い。

マイノリティ、共同体の外側であることを感じてきた村上にとって、それは最大の疑問だったのかもしれない。
私もそうした無意味な笑いをする人間の一人で、それに関して何も違和感を感じていなかった、いくつか著作を読むうちに、今無意味な笑いをしているなと、自覚はするようになり、他人のする、よく意味のわからない笑いになんとなく腹が立つまでになった。

本を読んで影響されるなんて!
私は単純な人間だが、前よりは物事を考えるようになった気がする。

学生やサラリーマンの飲み会で、誰か話しては笑いがドッと起き、その割には楽しそうに見えない記述にものすごく共感した、それについて考えたこと、そういう場面でどうすればいいか考えた。

自分もそういう状況で何の意味もなく笑い、同時に究極の意味のなさと空虚さをのなさを感じることがある。

思い返すとアレは、楽しい、楽しんでると周りに思わせないといけない、と思うからやっている。
楽しんでない、と思われるのは恐怖だ。

そういう席で、友人がニヤニヤしながら元気?みたいに肩を叩いて殺意が湧いたこともある。
たぶん楽しんでないやつを見ると優越感が湧くし、楽しんでないことを指摘されると殺意が湧くくらい、私には刷り込まれている。
が、実際やっていることはたいして楽しくないし一切意味がないことが多い。

重要なのは多分、そういう席でも1対1の会話を心がけることだ、いろんな人との1対1の会話を楽しむのがそういう席のいいところで、一人が多人数に対して語ったり、笑ったりすることではないかもしれない。

…そこで必要になるのは、ヒマそうにしている人間を観察し見つけることと、自然に席を移ることだ。
立席ならまだしも、場面によっては難しいかもしれないが。

タイトルの意味は幸福至上主義への疑問

タイトルである、「賢者は幸福ではなく信頼を選ぶ」の意味を最後の書き下ろしの章から勝手に要約すると、
まず前提に、世の中全体で個人的幸福が至上のものとして持ち上げられている状況がある。だがホームレスでも幸福な人間はいて、この程度だと思えばいくらでもレベルを下げられ、思考放棄のスローガン的傾向があり、国家間にも同じことが言える。

幸福は瞬間的に感じ一瞬で失われるものだが、信頼は持続的な努力が必要で瞬間的に失われることがない、だからこれからは国家も個人も、信頼を得ることを目標とすべきだ、という意味だ。

オールド・テロリスト』の小説内で具体的に、セキグチと元妻の関係で表されていたように思う、エッセイを読んで言葉足らずに感じたなら『オールド・テロリスト』も読んでみるべきだろう。

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